研究概要 |
本研究では心移植適応疾患の大きな割合を占める拡張型心筋症に対して,変異phosphodiesterase(PDE)遺伝子および血管新生因子遺伝子の導入により,その病態の改善あるいは移植に向け,より低侵襲でかつ効果的なbridge therapyを実現するものである。PDEはそのエステラーゼ作用により細胞内cAMPの不活性化を行っている。本研究では部位特異的遺伝子変異法を用いてエステラーゼ作用を失活した変異PDE遺伝子を構築,心筋細胞へ導入し内因性のPDEと競合させることによりcAMPの増強を図るものである.またその強心作用に伴う心筋酸素需要の増加を血管新生を促進することで補うために,血管新生因子遺伝子の導入を同時に行う。 1.血管新生遺伝子の構築および発現確認 強力な血管因子として知られるヒト肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子をそのcDNAよりPCR法により増幅し,pUC/SR-alpha内に挿入し,発現ベクターとした。 2.遺伝子銃によるHGF遺伝子導入 従来より当教室で使用している遺伝子銃を用いて,ラットの筋組織,皮膚,および肝臓に対してHGF遺伝子導入を行った。pUC/SR-alpha/HGFの導入により,肉眼的に導入局所の肝組織の肥大化が確認された。 3.ELISAによるhuman HGFの検出 遺伝子銃を用いてHGF遺伝子を導入した各組織及び血清中のhuman HGF濃度をELISA法により測定した。 以上を我々は平成12年度までに行い、平成13年度は、 4.beating heartへの遺伝子導入 GFP発現ベクターを遺伝子銃を用いてラットに対し、小開胸下にbeating heartへ導入し、経時的にGFP発現を確認した。beating heartへのGFP遺伝子導入では肝臓や皮膚に比べてGFP発現量が低下していた。 5.大動物におけるin vivo遺伝子導入 ブタを用いて遺伝子銃によるin vivo遺伝子導入を行った。肝臓においては少量のGFPの発現が確認されたが、皮膚、心臓などでは遺伝子のキャリアーである金粒子が臓器表面でトラップされ、GFPの発現が認められなかった。 6.変異PDE遺伝子の作製 エラスターゼコード部位特異的にpoint mutationを起こしたPDE遺伝子を作製中である。 現在、遺伝導入法については臨床応用を考慮して、より確実で効率的な遺伝子導入法としてin vivo電気穿孔法などのオプションを検討しており、また今後は、作製した変異遺伝子、血管新生遺伝子についてその生理作用の確認を行っていくものである。
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