研究概要 |
臓器移植の臨床において,臓器保存法の改良による保存可能時間の延長と保存再灌流傷害の軽減は重要な課題の1つである。われわれは保存可能時間の延長と保存再灌流傷害の軽減を可能にする新たな保存法の開発する目的で、ラット肝移植モデルを用いて過冷却保存(0℃以下,非凍結状態での臓器保存法)を試みた。細胞障害性が回避可能と予測される細菌由来の抗凍結性蛋白質を用いて安定した移植臓器過冷却状態が氷晶形成や細胞障害なしで実現可能かを確認し,肝冷保存傷害の機序を解析し,その傷害の主因の1つと予測される活性酸素,フリーラジカルに対する強力で安定な抗酸化剤である安定型アスコルビン酸誘導体(AA-2G)による傷害抑制効果を検討した。細菌由来の抗凍結性蛋白質を用いてラット肝過冷却保存の安定性を検討したところ、振盪状態での過冷却保存においても臓器保存液および保存臓器の凍結を防止し安定した移植臓器過冷却状態が保持可能であることが確認された。続いてラット肝移植モデルで過冷却保存傷害の要因と同傷害への類洞内皮細胞のアポトーシスの関与を検討し、安定型アスコルビン酸誘導体(AA-2G)の傷害抑制効果を評価した。過冷却保存は類洞内皮に対する冷保存再灌流傷害・類洞内皮細胞アポトーシスを増強させたが、AA-2Gはその類洞内皮傷害を抑制し移植肝グラフトのviabilityを向上させた。これより類洞内皮傷害、内皮細胞のアポトーシスが冷保存傷害の要因と示され、低温に由来する類洞内皮細胞傷害の抑制が肝冷保存法の向上に重要であることが示唆された。 細菌由来の抗凍結性蛋白質と安定型アスコルビン酸誘導体を用いた過冷却保存は肝実質細胞の保存性の向上をもたらし、類洞内皮細胞障害・肝細胞障害抑制物質を用いた肺過冷却保存が現在の4℃単純冷保存に優るグラフト肝保存法となる可能性が示された。
|