研究概要 |
本研究ではHelicobacter pylori(Hp)の関与を中心に胃癌の発癌過程を実験的・臨床的に解析することを目的とし,以下の成果を得た.実験的研究1)化学発癌物質とHp感染の組み合わせによって分化型胃癌と未分化型胃癌の双方が生じた.癌の表現形質をみると背景粘膜の腸上皮化生の胃内分布と程度は腸型分化型胃癌とのみ関与し,胃型分化型胃癌ならびに未分化型胃癌とは関連しなかった.2)化学発癌物質とHp感染の組み合わせによる胃発癌において,化学発癌物質の作用時期を遅らせると発癌率は低下した.Hp胃炎は胃発癌のプロモーターであり,発癌にはイニシエーター(化学発癌物質)との作用の時期が重要でった.3)Hp感染スナネズミモデルと十二指腸液が胃に逆流する手術を組み合わせ,胆汁酸の発癌への関与を解析した.胆汁逆流単独で生ずる胃炎はHp胃炎に比較して極軽度であり,Hp胃炎による炎症細胞浸潤に抑制的に作用した.一方BrdU標識率で示される胃粘膜上皮細胞回転はHp+DGR群で最も亢進しており,胃発癌に対する相加作用が示唆された.4)Hpを除菌すると胃発癌は明らかに抑制された.5)Hp感染早期の宿主反応を解析した.感染早期の胃炎の時期には酸分泌抑制,細胞回転の亢進,腺粘液細胞型ムチンの産生分泌亢進,厚い表層粘液ゲル層の形成および粘膜内プロスタグランデイン増加が見られ胃粘膜防御能が亢進していた.この時相にはHp感染は壊死惹起物質による胃粘膜障害を抑制した.6)腺粘液細胞に特異的に発現する糖転移酵素α4-GnT遺伝子mRNAの定量PCRによる測定法を確立した.Hp感染胃粘膜における胃ムチン産生亢進を遺伝子レベルで証明した.臨床的研究:外科手術胃癌112例を集積し厳密なHP感染判定(血清抗体価,培養,組織免疫染色)により,HP陰性胃癌の特徴は体部胃炎を伴わない胃上部の分化度の低い胃癌であった.
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