研究概要 |
無麻酔ラットの脳室内に各種ペプチドを投与し、リアルタイムで消化管運動を測定する方法を開発し興味深い結果を得た。Neuropeptide Y(NPY)を脳室内に投与すると、摂食が亢進すると同時に、食後期のパターンを示していた腸管運動が空腹期パターンに切り替わった(Am.J.Physiol.278:G32-G38,2000)。脳室内投与したNPYは脳内のY2,Y4レセプターに作用し、迷走神経を介してこの反応を起こすことが明らかになった。さらに脳内NPYの中和実験で消化管の空腹期運動が消失したことより、消化管の空腹期運動は脳内のNPYニューロンによってコントロールされることがわかった。 一方corticotropin releasing factor(CRF)やCRFレセプターの内因性リガンドであるウロコルチンを脳室内に投与すると、摂食が抑制されると同時に、空腹期パターンを示していた腸管運動が食後期のパターンに切り替わった(Am.J.Physiol.280:G406-G419,2001)。この反応は、脳内および末梢のCRFレセプターを介する反応であることがわかった。さらにCRFの中和実験では消化管運動の変化は見られなかった。この結果は、ストレスや手術によってCRFが放出されると消化管運動が抑制されることを示唆するものである。 本研究によって、消化管運動は脳内メカニズムによってコントロールされ、食行動と消化管運動は密接に関連することがわかった。さらに、腸が空腹期運動を示すと食行動が亢進し、逆に腸が食後期運動を示すと食行動が抑制されることで、腸から脳への信号の入力が示唆された。本研究によって、消化管運動をめぐる脳と腸の機能相関が明らかになった。
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