研究概要 |
ヒトの食道扁平上皮癌における蛋白合成開始因子のひとつであるelF4Eの発現を明らかにする目的で45例の食道扁平上皮癌の手術検体に対し免疫染色を行い、同時に腫瘍組織から抽出した遺伝子をRT-PCR法にて処理しelF4EのmRNAの増幅の測定。また、western blot法によりelF4E蛋白の発現の測定を試みてきた。食道癌におけるelF4E蛋白とp21蛋白免疫組織染色の発現程度により3群に分類し、またPCNA indexを各染色に合わせて行った。Elf4eは56%に発現が見られ,腫瘍の先進部に主として発現が見られた。また非腫瘍部では腫瘍に隣接する異型上皮巣の基底膜側に多く発現していた。高分化型の扁平上皮癌20例と中ないし低分化型の扁平上皮癌おのおの25例で発現を比較すると高分化型では高度の発現は20%以下、軽度発現から陰性が60%以上であった。一方、中ないし低分化型の癌では高度の発現が60%で見られた(P=0.002)。また、リンパ節転移についてみると、陽性群では高度発現が50%以上に見られ、転移陰性群では高度の発現は10%以下であった。一方,p21は42.2%に発現が見られ,発現の陽性例は高分化型扁平上皮,発現陰性例は浸潤型増殖様式の症例とリンパ管侵襲陽性例が多かった.PCNA陽性細胞率は分化度,累積生存率に相関し,p21の発現と逆の相関が見られた.Elf4eとp21の組み合わせでみるとelf4e陽性でかつp21陰性例に最もPCNA陽性細胞率が高く,累積生存率が低かった.以上よりelf4e発現例は低分化型扁平上皮癌に多く見られ,増殖が早く予後不良である.P21発現との組み合わせでは食道扁平上皮癌の悪性度の指標になる可能性がある.実験の当初採取した腫瘍組織から抽出した遺伝子をRT-PCR法にて処理しelF4EのmRNAの増幅の測定を試みたが、mRNAレベルでelF4Eの遺伝子増幅を捕らえることは困難であった。また、western blot法によりelF4E蛋白の発現を測定することも同様に困難であった。その理由として、食道癌の手術は腫瘍の摘出までに長時間を要し、手術操作のために腫瘍を含んだ食道組織が長時間低酸素状態に置かれており、腫瘍組織の凍結などの適切な処置を受けるまでの間に、極めて微量にしか存在しないelF4Eの遺伝子が破壊、変性を受けるものと思われた。この隘路を打破するために研究の途中から、術者の協力を得て手術中に少しでも早く新鮮な腫瘍組織を採取でき、測定できるよう努力した。また、内視鏡の生検による腫瘍組織の採取も試みた。さらにヒト食道癌の培養細胞を用いて抽出を試みた。しかし、再現性をもってelF4Eの遺伝子増幅を捕らえることは困難であった。その結果免疫染色によるデータから上記のような結論を導き出し、現在論文投稿中である。
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