研究概要 |
冠動脈バイパス手術における2種の吻合モデルについて定量的に評価するため,「In vitroによる評価」を水力学的実験,数値解析及び可視化実験の3方面から検討した. 本研究では,シリコーンチューブを用いて生体の冠動脈と内胸動脈の径及び弾性特性を模擬し,端側吻合(ESAs)モデル及び側側吻合(SSAs)モデルを製作した. 定常流下及び拍動流下において吻合部前後の圧力及び流量を計測し,圧力損失及びエネルギー損失により評価を行った.この結果SSAs,ESAsの順に高い圧力損失及びエネルギー損失を得た.SSAsと、比較するとESAsのエネルギー損失は23.8%高かった. 水力学的実験において圧力損失及びエネルギー損失にこのような違いが確認された原因である吻合形状の流れの様子を数値解析及び可視化実験により観察した.数値解析では,計測が困難な吻合部の速度分布を解析し,可視化実験では,吻合部の流れを観察し,吻合形状の違いによる流れの影響を検討した.数値解析で得た低速度領域,剥離領域及び可視化実験で得た渦,再循環領域から,SSAs,ESAsの順に吻合形状が主流を妨げていた事が示唆された. In vitroの実験結果を検証する目的で「in vivoによる評価」を行った.動物実験では,吻合部前後の血行動態を取得するため,実際に健常ブタ(40±3kg,n=5)に冠動脈バイパス手術を施し,吻合部前後の圧力及び流量を計測した.得たデータから圧力損失,また拍動血管抵抗値を算出し評価を行った.この実験からSSAsはESAsよりもエネルギー損失が44.8%低かった. 本研究の成果から,端側吻合法は術中に行われる形状では,側側吻合法よりも血流に及ぼす影響が少ないと考えられるが,術後には,冠動脈の開存率に大きく影響を及ぼす可能性があると考えられる.よって,術後の側側吻合法の状態を考慮すると,冠動脈バイパス手術において,吻合方法には側側吻合法を選択する方が望ましいと提言する.
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