研究概要 |
Ratの脳底動脈から得られた単離血管平滑筋細胞に,くも膜下出血(SAH)患者の髄液を作用させ,その形態学的変化とCa^<2+>動態について検討した。SAH発症後3,4日目に採取された髄液を作用させた時,血管平滑筋細胞の収縮が最も顕著であった。臨床上脳血管攣縮の極期は発症後7-10日目であるため,両者の間には相違が認められた。このことは,SAH後の髄液中に存在する収縮物質が,実際の脳血管の中膜平滑筋細胞に作用が及ぶのに数日かかることが考えられた。また,血管平滑筋細胞が収縮する際に細胞内Ca^<2+>濃度の上昇が確認され,SAH後に発生する脳血管攣縮には,血管平滑筋細胞の収縮が大きな役割を演じており,その収縮には細胞内Ca^<2+>の上昇が関与しているものと考えられた。 一方,この血管平滑筋細胞をP_<2x>,P_<2y>prinoceptorsのantagonistであるsuraminで前処置すると,無処置群と比較して有意に収縮が抑制された。このことはSAH後髄液による血管平滑筋細胞の収縮にヌクレオチドが関与していると考えられ,suraminが脳血管攣縮の治療につながる可能性を示唆した。 次にprotein tyrosine kinaseとmitogen activated protein kinase(MAPK)についてATPによる細胞内カルシウム濃度の変化への関与を検討した。ATPはratの脳底動脈平滑筋の細胞内カルシウム濃度を上昇させ,MAPKのリン酸化を起こした。これはprotein tyrosine kinase(PTK)によって制御された。引き続きdouble hemorrhage modelを使用して、脳底動脈の血管径とMAPKのactivityを比較検討した。血管径はday3,5,7と徐々に減少したが、MAPKのactivityはday3にpeakが認められた。これは先のSAH後3日目の髄液が脳血管平滑筋細胞を最も収縮された結果と一致するものであった。MAPKの阻害薬であるPD98059は血管攣縮もMAPKのactivityも抑制した。MAPKは様々な刺激に対する細胞内のsignal transductionに関与しており、脳血管攣縮においても重要な役割を持っていると考えられた。
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