研究概要 |
縦隔手術野の返血操作が血液脳関門に与える影響(動物実験)と脳障害のマーカとして注目されている血清中のS100b蛋白,NSEへの影響を検討した(臨床研究) 【動物実験方法】家兎を胸骨切開し,経左室的に送血管(サーフロー路針20G)を上行大動脈に挿入した(ヘパリン投与後),家兎の右眼に経頭蓋ドップラーモニタを装着し,コントロール群はこの状態で60分維持,返血群は内胸動脈などを擦過損傷させ90分で75mlの血液を送血管より返血した.その後エバンスブルー100mg/kgを緩徐に静注し10分後生理で潅流固定を行い脳を取り出し,脳の水分含量,エバンスブルー漏出の程度を検討した.さらに組織学的にHE染色,MAP2染色,GFAP染色を行った. 【結果】返血に伴って経頭蓋ドプラで塞栓が著明に検出され,エパンスプルーの漏出を認めた.辺血に伴いGFAPの染色性の増加がみられ,アストロサイトの形態学的変化がみられた. 【臨床研究対象と方法】CPB群:通常のCPB手術症例18例,SCP群:脳分離循環(SCP)手術7例.手術中から術後2日目にかけて7測定点でS100b蛋白およびNSEを測定した.CPB群5例では縦隔術野血中のS100b蛋白およびNSEを測定し,うち3例ではセルセーバ血の両蛋白を測定した. 【結果】S100b蛋白の平均値はそれぞれ大動脈遮断解除/SCP終了後に最大となった(2.08±200v.s.1.46±0.77ng ml-1).NSE値はそれぞれCPB終了後/手術終了時に最大となった(29.1±14.0v.s.31.2±13.6ngml-1).3例で脳障害が生じたが,これらの症例のS100b蛋白およびNSE値と脳障害を生じなかった症例との差は値なかった.縦隔術野血中のS100b蛋白およびNSEは,それぞれ52.5±56.3ngml--1,249±181ng ml-1と血清と比べてそれぞれ375倍,17倍高く,セルセーバ血中の値は差がなかった. 【まとめ】今回の検討から,縦隔手術野血の返血が血液脳関門の破綻を生じる原因になるが,同時にS100b蛋白およびNSEの動脈血への混入を招いていることがわかった.
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