研究概要 |
高濃度局所麻酔薬の使用で起こる不可逆的神経障害は、局所麻酔薬が神経細胞膜を可溶化により膜構造を破壊するために生じるとの仮説を我々は提唱し、それを証明するために実験を行った。 (1):局所麻酔薬が界面活性剤と同じように分子会合体を形成することを、イオン選択電極法を用いて求めた。これによって局所麻酔薬が一般の界面活性剤と同様の特性を持つことを示した。 (研究成果1,4) (2):局所麻酔薬がリン脂質モデル膜を破壊する濃度を光散乱強度から求めた。それらの濃度は、各局所麻酔薬の分子会合濃度と一致した。高濃度になると局所麻酔薬は界面活性剤の特性により膜を破壊することが示された。 (研究報告1,4) (3):モデル膜を破壊する濃度で実際にラットを用いて不可逆的神経障害が生じるかどうかを調べた。ジブカインとリドカインをラットのくも膜下腔投与後に不可逆的神経障害が生じる濃度は、それぞれのモデル膜破壊濃度と一致した。この結果は、不可逆的神経障害が局所麻酔薬の膜可溶化作用によって起こるという我々の仮説を証明するものである。 (研究成果1,3,4) (4):(3)の実験を行うにあたり、従来の脊椎麻酔モデルラットに比べ脊髄損傷の少ないモデルラットを開発した。従来の方法では、29Gのカテーテルをラットのくも膜下腔に挿入していたが、我々は更に細い31Gカテーテルを用いた。より細いカテーテルを用いることでカテーテル挿入に伴う神経損傷を少なくすることができた。 (研究成果2,3,4) (5):(3)の実験を行うにあたり、局所麻酔薬による神経障害の評価方法としてニューロメーターを動物にはじめて導入し、その評価が従来の行動学的評価法に比べ定量性に優れていることを示した。 (研究成果2,3,4) (6):赤血球を用いて局所麻酔薬による膜破壊実験を行い、モデル膜の破壊と同様に局所麻酔薬の会合体形成濃度以上で赤血球膜も破壊されることを示した。赤血球を用いた局所麻酔薬による溶血実験は、局所麻酔薬の神経毒性発現濃度を予想する簡便な方法であることを示した。 (研究成果1,2,3,4)
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