研究概要 |
脳室壁のependymal cellsは神経幹細胞であることが示唆されている.また.中大脳動脈域の梗塞で脳室周囲(subventricular zone)のprogenitor cellsが増殖・分化することが報告されている. この研究では,成体ラットの一過性脳虚血におけるependymal cellsの増殖,移動,分化について検討した.ラット(250-300g)の左側脳室に1,1'-dioctadecy-6,6'-di(4-sulfophenyl)-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine (DiI),0.2%,10μlを注入した.その30分後から右中大脳動脈閉塞(MCAO).を90分間おこなった後に再灌流を開始した.対照群ではDiI注入後にシャム手術をおこなった.また,一部のラットにおいてMCAO開始時から3日間,basic fibroblast growth factor (bFGF)を1μg/dayの速度で右側脳室内に持続投与し,MCAOの7日後に脳を摘出した.対照群では,シャム手術後7,14,28日後のいずれの時点においても側脳室のependymal cellsとrostral migratory streamにDiIでラベルされる細胞が限局していたが,MCAO群ではさらにependymal cell layerからsubventricular zoneを経て線条体の梗塞領域へ向かって移動するDiIでラベルされる細胞をみとめた.しかし,MCAO後7,14,28日におけるこれらの細胞の分布領域は類似していた.また,これらの一部はNotch 1免疫染色に陽性であり,ependymal cell由来である可能性を示している.MCAO後7日の時点でDiIでラベルされる細胞の一部がBrdUおよびPCNA免疫染色に陽性であったことから,それらが増殖可能であるこがわかった.しかしながら,これらの細胞のほとんどはβIII-tublin, glial fibrillary acidic protein, O4に陰性であったので,ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトよりも未分化であることが示唆された.以上の結果からependymal cellsは一過性の局所脳虚血に反応して増殖し,subventricular zoneから梗塞領域に向かって移動する未分化な細胞の起源であると推測される.なおbFGFは,今回用いた用量と投与法ではMCAO後のDiI陽性細胞の動態および梗塞量にほとんど影響を及ぼさなかった.
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