近年、循環器疾患手術症例が飛躍的に増大し、周術期における心機能評価が重要な課題となっている。また最近では超音波計測による心機能評価が重要性を持つといわれているが、測定毎に変化する複雑な画像から不変的かつ定量的な評価を行うことは困難を伴い、測定者の主観的な判断に頼らざるをえない。また、高価な装置や手技の熟達度が要求されることから、今なお容易に術中食道超音波計測を行える状況ではなく、他に代わる簡易的で信頼できる心筋収縮力評価法が求められている。 Q-D時間とは心電図のQ波から最低動脈血圧が確定するまでの時間で、D-S時間とは最低血圧から最高血圧が確定するまでの時間である。この測定法を日本コーリン株式会社(心電図計測メーカ)に照会したところ、新機種の製品に添加させることになり、BP-608の名称で昨年より市販されている。Q-D時間、D-S時間の心不全からの回復経過は前項の図に示すように明らかに短縮が見られているが、この値についての論理的根拠は幾つかの要因が重なった結果だと考えられる。まず、心電図については問題はないが、動脈圧測定部位が異なればQ-D時間、D-S時間の変化に影響が現れることが予想される。また、最低血圧が高く、動脈壁の緊張が高ければ圧波伝搬が早くなることが予想される。全体的な体血管抵抗の変化も無視はできない。従って、現在では同一患者について相対的な循環動態の変動を把握する上では十分信頼できるパラメータである Q-D時間、D-S時間を心臓手術において測定したところ、D-S時間は心臓の回復とよい相関がえられたが、高度の心不全でないかぎりQ-D時間に大きな変化が現れなかった。心臓での血液拍出を仕事量で考えると、Q-D時間は心室の内部エネルギーの上昇に使われ、D-S時間は外部に向かっての仕事時間であり、心筋収縮力が低下した場合では、D-S時間の延長は妥当な結果であり、心筋収縮力の連続測定ができるよい指標であるととが明らかになった。
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