研究概要 |
我々はこれまでの研究から、膀胱癌患者において腫瘍関連マクロファージの腫瘍組織内分布密度が高い症例ほど予後不良であることを報告した。また膀胱癌では血管新生因子であるチミジンホスホリラーゼ(TP)が浸潤性膀胱癌で表在性膀胱癌よりも有意に高発現しており浸潤と関連していることを見出した。そこで今回、定量的real-time PCR法によりさらに詳細に膀胱癌浸潤の危険因子・交絡因子の探索、解析を行った。またこれらの因子とTPとの相関についても検討した。 (方法)72名の膀胱癌患者より採取した浸潤性膀胱癌標本34検体と表在性膀胱癌標本38検体より抽出したtotal RNAよりcDNAを作製し、定量的real-time PCR法(ABI PRISM 7900HT : Applied Biosystems Japan社製)により浸潤関連因子であるMMP-1,MMP-2,MMP-7,MMP-9,MMP-14,TIMP-2,uPA,PAI-1,TS,DPD,TP,VEGFの発現について定量比較した。それぞれの因子の発現量はGAPDHにより補正を行った。さらにTP発現と各因子発現の間の相関について検討し、その機序について検討した。 (結果)表在性膀胱癌と浸潤性膀胱癌におけるmRNA発現レベルを比較解析(Iogistic regression analysis)すると、MMP-2,MMP-9,TIMP-2,uPA,TPの各因子は表在癌に比べ浸潤癌の方が有意に発現が強かった。なかでもTPの発現によるadjusted Odds ratioは2.413と最も高い値を示した。さらにTP発現と各因子の発現における相関を検討(Spearman's rank test)するとTPとの有意な相関が見られたのはMMP-1,MMP-7,MMP-9,TIMP-2,uPA,PAl-1,DPD,VEGFの各因子であった。そこで、TPの代謝産物である2-deoxy-D-ribose(2DR)によりin vitroで各因子の発現誘導の有無を観察したところ、弱酸性(pH6.5)環境下においてMMP-2,MMP-9,uPAの発現誘導がみられた。従来、2DRによる活性酸素の発生が血管新生因子の誘導の機序と考えられていたが、活性酸素の阻害剤であるN-acetyl cystein(NAC)によるこれらの因子の発現抑制は認められなかった。 (考察)これまで腫瘍浸潤に関与していると思われていた因子のうちMMP-2,MMP-9,TIMP-2,uPA,TPは膀胱癌において腫瘍浸潤に関連している可能性が示唆された。なかでもTPは今回検討した因子のうち、浸潤に対するリスクを上げる因子として、最も有力なものと考えられた。また血管新生因子のTPの代謝産物によって弱酸性条件下でMMP-2,MMP-9,uPAの発現が誘導されることは固形腫瘍内のpHが弱酸性(pH5.5〜7.4)であることから考えて矛盾しない結果と思われた。
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