研究概要 |
1,エストロゲン補充療法(ERT)は抗動脈硬化作用を有する反面,ERTによるtriglyceride(TG)の増加がLDLを小粒子化し,動脈硬化に促進的な作用も有する可能性を報告してきた。今回,ERTによるLDL小粒子化の機序には以下の3つのステップが存在することを明らかにした。第1段階:エストロゲン投与により,肝内でのTG合成が亢進すること。第2段階:TGの増加が脂質転送活性(LTR)を亢進させ,LDLをTG-rich,コレステロールエステル-poorなLDL粒子に変化させる。第3段階:生理学的濃度のリパーゼ(リポ蛋白リパーゼあるいは肝性リパーゼ)が存在すると,LDL内に増加したTGが加水分解され,LDL内の深層脂質成分が減少するため小粒子化される。実際にLDLをin vitro下で上記の3段階に従って処理すると小粒子化することも認されている。次にERTによるLDLの小粒子化が動脈硬化に促進的かどうかを検討した結果,ERTによってTG増加のない症例ではLDL粒子径に変化なく,エストロゲンの抗酸化作用が期待できるが,TGが増加する症例ではLDLが小粒子化し,エストロゲンの抗酸化作用に相殺的に作用することが示され,ERTによるLDLの小粒子化が動脈硬化に促進的であることが明らかになった。 2,動脈硬化の発症と密接に関連する血管内皮機能は閉経後に低下し,ERTで改善することが報告されている。今回,エストロゲンに併用する酢酸medroxyprogesterone(MPA)がエストロゲンの内皮機能改善作用にどのような影響を与えるかを検討した。内皮機能はエストロゲン単独投与で有意に上昇したが,MPAの併用量(2.5mg,5.0mg)と用量依存的に低下し,2.5mgの併用で投与前と有意差のない値にまで低下した。従って,MPAは血管内皮機能の抑制因子と考えられ,エストロゲンの内皮機能改善効果に相殺的に作用することが明らかになった。
|