研究概要 |
本研究課題において用いる不死化ヒト卵巣表層上皮(OSE)細胞株は正常ヒトOSEへのSV40 large T antigen導入により樹立されたもので、この中において軟寒天培地上で高率にコロニー形成能を有するOSE2b2株は、ヌードマウス腹腔内への移植によって、腹水産生を伴う播種性の癌腫形成がみられた。また、同一症例のOSEより得られたOSE2a株は、コロニー形成能は低率でこのような造腫瘍性はみられなかった。これらの2つの細胞株において、腫瘍形成能を有しない細胞株OSE2a株においてluteinizing hormone/human chorinoic gonadotropin receptor (LH/hCGR)の発現がみられたものの、腫瘍形成能を有する細胞株OSE2b2株ではLH/hCGRの発現がみられなかった。LH/hCGRの発現を有するOSE2a細胞株において、低濃度(10^3mIU/ml)のhCG添加群では足場依存性増殖の亢進ならびにIGF-1の発現増加が観察され,高濃度(10^5mIU/ml)のhCG添加群では両者の減弱が観察された.また,IGF-1を添加することで濃度依存性に細胞増殖能の亢進が観察された.一方,足場非依存性増殖能を表すコロニー形成率は、高濃度(10^5mIU/ml)のhCG添加群(1.29±0.18%)でのみ有意に増加がみられ(P<0.005),無添加群(0.44±0.12%)に比して2.9倍であった.IGF-1添加群では有意な増加はみられなかった.また、Atlas Human cDNA Expression Array (Clontech)を用いて、既知の588遺伝子の発現の変化の有無を調べたが、これらに含まれる癌遺伝子や癌抑制遺伝子の発現は両者において差がみられなかった。両細胞株で差異を認めた遺伝子は、integrinβ1,接着因子であるICAM-1、ならびに、cyclin dependent kinase 2 (CDK2) inhibitorであるCip1/Waf1であった。これらの3つの遺伝子において、OSE2a株において、hCG添加による発現変化をみたところ丸高濃度(10^5mIU/ml)のhCG添加群ではintegrinβ1の発現の減弱がみられた。これらの結果より、LH/hCGRはIGF-1やintegrinβ1の発現を介して、足場依存性増殖能や足場非依存性増殖能に影響している可能性が示された。これは、OSEのLH/hCGRの頻回の刺激や過剰刺激により、OSE細胞が増殖刺激を受け、卵巣癌発生に関与する可能性を示唆するものである。現在、以上の研究成果をCancer Scienceに投稿中である。 PTENに関しては、LH/hCGRに関する機能解析を先行し、PTEN導入による形質の変化は今後さらに検討を行っていく。
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