研究概要 |
平成12-14年度の研究では,ラットの嗅粘液の電解質濃度の維持や調整の機構について総合的に検討をした. 正常ラット嗅上皮におけるイオン恒常性維持機構として,ナトリウムポンプであるナトリウム・カリウムアデノシントリフォスファターゼ(sodium, potassium-adenosine triphosphatase, Na^+, K^+-ATPase)を免疫組織化学的染色法により,またナトリウム・プロトン交換輸送体(sodium/proton exchanger, NHE)を定毎的PCR法により検索した.また,グルココルチコイドレセプターの発現を免疫組織化学的染色法により検索をした.さらに、硫酸亜鉛を点鼻した嗅覚障害モデルでも同様に検討した. 正常ラットでは,Na^+,K^+-ATPaseはBowman腺の腺管で最も強く発現が見られ,そのほかにBowman腺の腺房細胞や嗅細胞でも発現が見られた.またNHEの発現では検索した5つのアイソフォームのうちNHE-1が,嗅上皮でその生理的役割が期待できる量のmessenger ribonucleic acid(mRNA)の発現が確認された.また,グルココルチコイドレセプター抗体は支持細胞の鼻腔側の細胞質で最も強く見られ,そのほかに支持細胞の基底側面の細胞質でも発現が見られた. 嗅覚障害モデルでは,嗅上皮の回復過程において嗅上皮の再生とともにNa^+,K^+-ATPaseやグルココルチコイドレセプターも再生することが観察され,これは行動学的観点でも嗅刺激性行動観察法により嗅覚障害の改善が確認された.以上の結果から,嗅粘液の電解質の維持や調節にNa^+, K^+-ATPaseやNHE-1が関与し,さらにグルココルチコイドレセプターの制御を受けている。 これらの結果から、嗅覚障害の一部に嗅粘液の性状の異常によるものがあり、その回復過程において電解質調整蛋白の発現が様々に亢進や抑制をうけることが明らかとなった。その過程において、グルココルチコイドが嗅上皮の粘液中の電解質の調整に有利なように作用することから、嗅覚障害の回復に有利に働くものと推察された。
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