研究概要 |
我々の今までの研究で,声門上下圧差(P)と音声基本周波数(Fo)との特異な関係を明らかにしてきた。すなわち、単位声門上下圧差あたりのFoの変動幅(dF/dP)をy軸に、Foをx軸にとると、その2者の関係はV字型のグラフで示される。そして,この関係は、Fo調節における振動部の緊張度と質量の組み合わせ方で決まることを示してきた。ヒトの病的声帯ではこの関係に変化があることも判明した。本研究ではこのヒトの病的声帯で観察された、dF/dPとFoの関係の変化が振動部の緊張度と質量の組み合わせの変化で説明できるかを、モデル実験で検討した。 声帯に微細な病変があっても、ある許容内では、声帯自体の規則的振動は維持される。喉頭筋の補償的調整がなされ、その結果として、声帯振動部の緊張度・質量が再調節され、規則的振動を維持するものであろう。しかし,従来の喉頭検査では捉えられないこの調整作業を知ることは、微細な声帯病変の推定につながるものである。 我々は声帯振動のゴム膜モデルを開発した。このモデルは、極めて単純な構造ながら、振動部の緊張度と質量を自在に変化させることができる。他に類をみない。このモデルを使い、我々は、人で観察された音声基本周波数の調節において声帯の緊張度と質量がどのような組み合わせで振動周波数を上昇させているかを明らかにし得た。すなわち,ゴム膜モデルでは振動部を伸展させるとFoは増加して,dF/dPは減少する.一方,振動部の質量を減少させるとFoは増加し,dF/dPも増加する.現有モデルでは、振動部の内圧(緊張度)と質量は、間接的推定値であるので、これらを直接測定できると共に微調節ができるように改良を加えた。
|