研究概要 |
加齢黄斑変性の発症には多数のリスク因子が関与するとみなされるが実態は不明である.網膜の光酸化毒性防御機構や解毒機構にかかわるさまざまな酵素の中から、10種類以上の生体酸化や外来化合物の代謝に関与する酵素遺伝子を取り上げて、その多型(genetic polymorphism)の実際を多数の加齢黄斑変性症例で調べて健常群と比較した.その結果、manganese superoxide dismutase(MnSOD), microsoal epoxy hydrase(mEPHX)のアリル多型頻度が加齢黄斑変性と健常者群との間で相違することが判明した.ことに、MnSODの多型に顕著な差異がみられた.MnSODのシグナルペプチド翻訳領域にはVal/Val, Val/Ala, Ala/Alaという多型がみられる.加齢黄斑変性99例では、Val/Val 89.6%, Val/Ala 31.3%, Ala/Ala 9.1%であり、健常者197例ではそれぞれ67.5%,31.5%,1.0%であり、両者の間に有意の差異がみられた.MnSODは網膜色素上皮細胞に発現して有害酸素の除去のために機能していることが実証されている.mEPHXについても同じような結果であった.遺伝子型と酵素機能との間の関連については今後の検討課題であるが、加齢黄斑変性の発症リスクにこうした酵素が関連することを示唆する知見である.MnSOD, mEPHX以外には、今回取り上げた酵素遺伝子の多型頻度には有意な増減はなかったが、さらに別の多数の遺伝子を検討して複合的なリスク因子を明らかにしていくことが今後に残された課題である. なお、加齢黄斑変性に類似した臨床像を示すSorsby fundus dystrophyを我々は本邦ではじめて確認したが、その原因遺伝子tissue inhibitor proteinase-3は加齢黄斑変性では異常がなかった.したがって、加齢黄斑変性に対する罹病性(susceptibility)には、単一の遺伝子ではなく、多数の遺伝要因と環境要因とが複雑にからみあうとみなされる.今後はこうした視点から多面的に遺伝的要因を明らかにしていくことが大切であろう.
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