研究概要 |
平成13年度は視力予後不良なベーチェット病によるぶどう膜炎の新しい治療としてヒトーマウスキメラ型抗TNF-alphaモノクローナル抗体の効果を検討した. まずはじめにおこなった前期第II相臨床試験では網膜ぶどう膜炎を有するベーチェット病患者でシクロスポリン治療の効果が不十分,あるいは副作用により投与が不可能になった症例を対象とした.投与量は1回あたり5mg/kgを0週,2週,6週,10週の4回点滴静注し,臨床症状により判定する有効性と副作用について検討した.その結果ぶどう膜炎の発作は投与により軽快し,霧視などの眼科的自覚症状,あるいは口内炎などの全身症状も著しく改善した.一方副作用については投与を中止する必要のあった重篤な例はなかった. 一方この前期第II相臨床試験後2か月ほどで全例ぶどう膜炎の発作を再発するようになった.すなわち投与中の臨床症状の改善は単に病勢を抑制するのみで治癒せしめているものではないことが明らかになったため,前期第II相臨床試験に続けて長期投与試験を行った.長期試験中軽度の発作が見られた症例があるが,炎症の活動性は概ね抑えられており,本薬物を今後実際に臨床の場で投与する際の方法`ついて示唆が得られた.現在はその後の再燃の有無につき経過をみている.副作用については重篤なものはみられなかったが抗核抗体の持続的上昇があり,追跡調査中である. 本薬物のベーチェット病のぶどう膜炎に対する有効性は強く期待できる.しかしぶどう膜炎の炎症を抑えるだけでなく,抗核抗体の上昇など,免疫系に与える影響の広がりについては十分確認されていない.また特定のサイトカインを抑制する本療法が長期間にわたるとサイトカインネットワークの均衡を偏倚させ,新たな病態を誘導する可能性があり,将来的にはより抜本的な治療法の開発が望まれる.
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