研究概要 |
これからの高齢化社会では加齢性の視覚障害が増加することが予測され、これに関する基礎・臨床研究の推進が急務であるといえる。特に加齢黄斑変性は、米国で65歳以上の失明率が最も高く、日本でも急増をみせている重要な疾患である。国立感染症研究所筑波霊長類センターで発見された黄斑変性カニクイザルは世界でも類を見ない黄斑変性動物モデルであり、この疾患の基礎的、臨床的な研究を行う上で貴重な材料を提供してくれている。一般的に使われるマウスやラットなどの実験動物は黄斑部をもたない。マウスやラットはゲツ歯類で夜行性であり、霊長類のような長寿で昼行性の動物と視覚機能の有用性が異なるためである。 我々は黄斑変性カニクイザルについて組織学的研究からはじめ、眼底写真から特に異常所見の著明な個体についてこの網膜切片を作製し、加齢黄斑変性特有のドルーゼンの存在を確認した。PAS染色、蛍光観察、免疫染色などを行ってドルーゼンの組成がヒトで観察されるものときわめて近いことを確認した。さらに、正常および疾患カニクイザルの網膜、脈絡膜層からRNAを抽出してcDNAに変換し、クローンテック社のDNAアレーを用いて8、000遺伝子について発現量の比較を行った。この結果14の遺伝子について2.5-7.6倍の転写上昇が観察され、反対に、5つの遺伝子については2.4-3.8倍の低下が観察された。その中にはATP synthase, H+ transporting, mitochondrial FO complex, subunit f, isoform 2などの顕著な上昇やlymphatic vessel endothelial hyaluronan receptor 1の低下が観察ざれた。発現量の変化した遺伝子についてはドルーゼン形成との関連性について現在解析を継続している。
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