研究概要 |
現在、我が国における高齢者の主たる失明原因は加齢黄斑変性であるが,脈絡膜新生血管膜が網膜色素上皮層の上に限局する症例に関しては,新生血管膜抜去術の適応になる.しかし,術中に黄斑下の網膜色素上皮細胞が広く欠損してしまうことが多く,これが術後の視力改善を妨げる一因と考えられる、そこで,現在,眼表面の再建術に臨床応用されている人羊膜の黄斑下手術における有効性を検討するため、家兎眼で網膜色素上皮細胞欠損モデルを作成し,経時的に経過観察と組織学的検討を行った. 方法:有色家兎眼16眼に対して,硝子体手術を施行した.前嚢を温存した径毛様体水晶体切除後,後部硝子体剥離作成と硝子体切除を行った.BSS【○!R】を30G針にて網膜下に注入して約3視神経乳頭径大の限局性の網膜剥離を作成した.次にソフトチップカニューラにて約1視神経乳頭径大の範囲の網膜色素上皮細胞を吸引除去した.コントロール眼は液空気置換後,創を縫合閉鎖した.モデル眼では正常ヒト羊膜を網膜下鑷子で把持し,意図的網膜裂孔から網膜下へ挿入し,液空気置換後,創を縫合閉鎖した.経時的に経過観察を行い,1日、1週、2週、4週に眼球を摘出し、光顕観察と免疫組織学的観察を行った。 結果:術翌日のみ前房に軽度の炎症所見をみとめたが、フィブリン析出、眼圧上昇、白内障、硝子体混濁、硝子体出血、網膜出血は全経過を通じてみられなかった。光顕観察において,コントロール眼では網膜剥離は復位しており,経過を通じて,網膜色素上皮細欠損部に細胞増殖はみられなかった、一方,人羊膜移植モデル眼では,限局性の網膜剥離が残存し,羊膜周囲には網膜色素上皮細胞と思われる円形の色素細胞が多数みられた.しかし,線維芽細胞様細胞の増殖,膠原線維の形成、炎症細胞の浸潤はみられなかった.免疫組織学的染色では術後1週で、羊膜周囲にCD)4、CD8陽性細胞がわずかにみられたが、2週、4週では消失した。術後4週で、羊膜下の網膜色素上皮細胞には多層化がみられたが,網膜色素上皮細胞欠損部を覆う再構築はみられなかった. 結論:異種移植である家兎眼網膜下ヒト羊膜移植モデルでは拒絶反応がおきないことがわかった、これは、羊膜自身および網膜下の環境が共に免疫学的寛容にあるためと考えられた.また,網膜下のヒト羊膜は網膜色素上皮を増殖させる働きがあり,将来,黄斑下手術は臨床応用できる可能性が高いと.しかし,広範な網膜色素上皮細胞欠損部を再建することは不可能であり,培養網漠色素上皮細胞移植術におけるキャリアーとしての有効性について検討する必要がある.
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