研究概要 |
熱ショック蛋白(Hsp)は温熱などのストレスにより細胞内に一時的に誘発される蛋白質で,細胞の損傷からの防御と修復に関与することが知られている.今回我々は発生における低分子熱ショック蛋白Hsp25/27の役割を明らかにする目的で,ラット切歯・臼歯象牙質形成におけるHsp25/27の歯髄での発現を検索すると共に,歯牙再植ならびに窩洞形成実験モデルを用いた歯髄再生過程でのHsp25/27の発現を検索し,以下の結果を得た. 【歯髄発生過程におけるHsp25/27の役割について】 幼若な歯髄細胞が一過性にHsp25/27陽性を示し,象牙質形成が進行すると,象牙芽細胞は細胞突起基部を含めた細胞質全体に強い陽性反応がみられたが,歯髄細胞の反応は減弱した.以上により,Hsp25/27発現は象牙芽細胞の分化・機能発現と密着に関与することが明らかとなった. 【歯髄再生過程におけるHsp25/27の役割について】 コントロール歯髄では,歯冠部象牙芽細胞がHsp25/27強陽性を示したが,歯牙再植後1日で歯髄の免疫活性が消失し,血行と神経分布が回復する5日後までに,Hsp25/27強陽性を示す細胞が歯髄・象牙境に配列する様になった.一方,窩洞形成は傷害を受けた象牙芽細胞と象牙前質間に滲出性変化を惹起し,傷害を受けた象牙芽細胞はHsp25/27免疫陽性を持続していたが,12時間後までに歯髄・象牙境のHsp25/27免疫反応は消失した.72時間後には,新しく分化した象牙芽細胞が歯髄・象牙境に配列し,Hsp25/27免疫陽性を示した.以上の様に,Hsp25/27免疫反応が歯牙再植ならびに窩洞形成後の象牙芽細胞の再生過程を反映していること,また当該蛋白が象牙芽細胞の分化マーカーとして利用できることが示された.
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