研究概要 |
生体に取り込まれた酸素の数パーセントは平時でも反応性の高いフリーラジカルに変換され、蛋白、脂質、遺伝子と反応して代謝や輸送に影響を与える。さらにこれらラジカル(活性酸素、NO)は連鎖反応により、危険反応産物を産生増加し、多彩な疾患の増悪因子として働くことが知られている。近年、歯周組織、骨組織の細胞において、フリーラジカル関連酵素である活性酸素消去酵素及び一酸化窒素合成酵素などの存在有無が議論されているが、正常像における動態及び局在についても大部分不明である。そこで本研究は、In situ hybridization法及び免疫組織化学的方法による歯周組織及び骨におけるフリーラジカル関連酵素の存在部位を検索し、各種ラジカルの相互関係を明確にするため、ノックアウトマウス及びトランスジェニックマウスを用いたある特定のラジカルの増加及び減少時の他種ラジカルの変動動態を、関連酵素を目安にして主に形態学的に検索した。 (方法及び材料)Control mice, SOD1 transgenic mice, NOS2 KO, NOS3 KO miceを用い、頭蓋骨、上顎歯槽骨、上顎歯肉、歯根膜についてi-NOS mRNA, e-NOS mRNA, Mn-SOD mRNAの発現についてin situ hybridization法を用い検索した。(結果)、歯肉のcontrolでは、Mn-SOD mRNA及びe-NOS mRNAの発現は弱陽性、i-NOS mRNAの発現は陰性であった。さらに遺伝子操作マウスにおけるmRNAの発現については、(1)Mn-SOD mRNAの発現は、SOD1 transgenic miceにおいては、弱陽性、NOS2 KO miceの歯肉においては強陽性、NOS3 KO miceの歯肉においては弱陽性であった。(2)i-NOS mRNAの発現についてはSOD1 transgenic miceにおいては陽性、NOS2 KO miceの歯肉においては陰性、NOS3 KO miceの歯肉においては弱陽性であった。(3)e-NOS mRNAの発現については、SOD1 transgenic miceにおいては弱陽性、NOS2 KO miceの歯肉においては強陽性、NOS3 KO miceの歯肉においては陰性であった。さらに、蛋白レベルの変動を調べるために、Western blottingを行い検索した。その結果、mRNA変動とパラレルに蛋白レベルでも変動していた。また活性酸素と一酸化窒素が同時に発生する時に生じる危険産生物パーオキシナイトライトの発生有無を調べるために、ニトロチロシン抗体を用いた免疫組織学的検索を行った。その結果各種ラジカルの変動と関係があることが示された。(考察).Control miceにおけるMn-SODmRNA, e-NOS mRNAは、歯肉上皮の角化層直下にシグナルが認められたが、これはこれらの部位においてsuperoxideとnitric oxideを調節する必要性があり、さらに細胞の角化を制御している可能性が考えられる。NOS2KO miceにおけるMn-SODmRNA及びe-NOS mRNAが増加していた。これらのことからi-NOS遺伝子をノックアウトしても,superoxideとnitric oxideは増加するものと考えられ、さらには、nitrotyrosineの変化からperoxynitriteの発生が考えられる。NOS3KO miceにおけるi-NOS mRNAがcontrolより増加していたが、これは代償性変化だと考えられる。さらにMn-SODmRNAが増加し、nitrotyrosineの増加が観察されたことにより、peroxynitrite発生が考えられる。
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