研究概要 |
本研究は開口分泌における頂端側形質膜ホスホリパーゼD(PLD)の関与を検討したものである.頂端側形質膜PLDは,ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP_2)によってGTP-γ-S非依存的に活性化されるほか,オレイン酸によっても濃度依存的な活性上昇が観察された.さらにPIP_2とオレイン酸が共存すると相乗的な活性化効果が得られた.PIP_2と特異的に結合するネオマイシンは,頂端側形質膜PLD活性を用量依存的に抑制した.これらのPLD活性調節因子の代謝経路を検索したところ,頂端側形質膜にはPIP_2の生成系としてホスファチジルイノシトール4-キナーゼおよびホスファチジルイノシトール一リン酸キナーゼが存在し,脂肪酸の生成系として不飽和脂肪酸鎖選択性のホスホリパーゼA_2が存在していた.したがってこれらの酵素がPLD活性化系として機能することで,in vivoにおいてもPLDの充分な活性発現が期待できる.一方,耳下腺単離分泌顆粒とモデル膜からなるin vitro膜融合系を用いた解析では,モデル膜のPLD(キャベツ由来)処理による膜融合能の亢進が確認できた.現時点ではin vivo開口分泌において,頂端側形質膜PLDが同様の機能を担う可能性については充分検討できていないが,最近Dohkeらによって,耳下腺分散細胞からのアミラーゼ分泌がネオマイシンで部分抑制されるという報告がなされた[BBRC,299,699(2002)].頂端側形質膜PLDもネオマイシン感受性であるので,本剤の分泌抑制効果は,頂端側形質膜PLDのin vivo開口分泌への関与を示す一傍証であると考える.今後は,分散細胞系を用いて分泌刺激時におけるPLD活性変動およびその活性調節因子の動態の解明をおこなうとともに,開口分泌との相関を検討し,本酵素のin vivoにおける機能解明を進める予定である.
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