研究概要 |
本格的な高齢社会を迎えた今日,口腔感覚の一つである味覚は、質の高い生活を営むための重要な要素である.我々は,高齢者の味覚異常の訴えに,しばしば遭遇するが,高齢者は味覚に影響を及ぼす因子を有している割合が高いため,その原因が,生理的加齢によるものなのか,全身性疾患や服薬,口腔内状態の影響であるのかは不明な場合が多い.そこで,平成12年度は高齢者の味覚の嗜好,全身状態や常用薬剤,口腔内状態などを把握するためのアンケート調査を行い,平成13年度は被験者を用いて味覚機能検査を行ってきた. 今年度は味覚機能検査の被験者数を増やし,アンケート調査との比較検討を行った.味覚機能検査は,アンケート調査の協力が得られた高齢群31名(63〜83歳),若年群17名(24〜30歳)で行った.検査は,咀嚼刺激による5分間の反射性唾液分泌量の測定,庶糖(甘味),塩化ナトリウム(塩味),酒石酸(酸味),塩酸キニーネ(苦味)の水溶液を用いた全口腔法による味覚閾値の測定,およびリオン社製電気味覚計TR-06を用いた電気味覚閾値検査を行った. その結果,アンケート調査から,味覚異常の自覚と関係が深かったのは,口腔粘膜不良感,口渇感,義歯の不満,噛めない等であった.味覚機能検査の結果,アンケート調査で味覚異常を自覚している被験者と口腔内,義歯の異常を訴えた被験者では,味覚閾値の上昇は認められなかった.逆に,味覚異常の自覚と関連が少なかった全身性疾患や服薬のある被験者では,酸味や苦味の閾値が高かった.今回の結果から,高齢者で味覚異常を訴える患者では,味覚閾値の上昇だけでなく,口腔内の不調和が味覚異常の意識に及ぼす影響を考慮すべきであることが示唆された.
|