研究概要 |
本研究においては,ビスフェノールA量が,ラジカルとの反応や溶出物の分解などにより,動的に変化することを考慮して,ビスフェノールAの溶出現象を解析することにより,歯科用レジンからのビスフェノールAの溶出問題に関して,明解なる指針を提供することを目的とした. 1.ビスフェノールA存在下のラジカル重合 ビスフェノールAがラジカル重合反応に及ぼす影響を解明するために,メタクリル酸メチル(MMA)の重合系にビスフェノールAを添加して,重合反応を詳細に検討した.ビスフェノールAは典型的な重合禁止剤的挙動を示したので,レジンの硬化後には,歯科用レジン中に微量存在するビスフェノールAは重合禁止剤として消費されて,重合系内に存在し得ないことが明らかとなった. 2.ビスフェノールA類似化合物との比較によるラジカル捕捉機構の解明 ビスフェノールAによるラジカル捕捉機構を解明するために,MMAの重合におけるラジカル捕捉現象をビスフェノールA類似化合物と比較・検討した.ビスフェノールAのstoichiometric factor(n)は1.8となり,重合禁止活性の高いビスフェノールAは,ラジカル相互作用の結果として酸化された状態になることが示唆された. 3.ビスフェノールAの動的溶出挙動と溶出後のビスフェノールAの産生 ビスフェノールAとBPOを549時間反応させたが,ビスフェノールAの新たな反応生成物は認められず,歯科用レジン中で共存するBPOとビスフェノールAの反応は起こらないことが示された.一方,可視光線重合型レジンでは,硬化時に数10ppmのビスフェノールAが消費されるので,ビスフェノールA含有量が10ppm以下の歯科用レジンでは,実質的には硬化物からのビスフェノールAの溶出や分解産生が起こらないと結論ざれた.
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