研究概要 |
咬合改善を伴う補綴処置においては,補綴物を口腔周囲の生理的活動に適応させることが重要である.その適否は下顎や舌などの口腔内組織だけではなく顔面の動作にも影響する.ため,機能時の顔貌や口腔運動の様相を評価するパラメーターが必要であると考えられる.そこで,本研究では,多点の運動解析が可能なモーションキャプチャー・システムを用いて,顔面皮膚上点の運動から下顎運動を推定するために,開口運動時における下顎切歯点と顔面皮膚上点の動態解析結果を重回帰分析し,それらの相関を検討した. 方法:健常有歯顎者8名の顔面皮膚上の9部位に光反射性標点を貼付し,6方向から記録した.また,下顎と同期して移動する仮想点の運動を観察するため,仮想点指示用ポインターで静止時の切歯点の位置座標を記録した.これらをワークステーション上で合成し,9部位の顔面皮膚上点と切歯点の運動を立体構築した.回帰分析は切歯点での開口量を目的変数とし,9部位の顔面皮膚上点の三次元的移動量(左右X,前後Y,上下Z成分)計27個を説明変数とした.また,変数減少法を用いて説明変数を10程度に絞り込み,顔面皮膚上点から切歯点の運動を推定する重回帰式を求めた.この操作を開口量5mmまで(5mm式),開口量10mmまで(10mm式),開口量15mmまで(15mm式)の範囲のデータでそれぞれ行い,3つの式を得た. 結果:5mm式では,開口量が増えるごとに推定値と実測値の差すなわち,誤差が大きくなった.10mm式では,開口量10mmまで誤差は少ないが,10mm以上の区間ではその差は1.7mmと大きくなった.15mm式では,開口量で誤差が増えることはなく,精度は0.8mm以下(3.6%)となった. 以上の結果より,下顎切歯点切歯点の開口量15mmまでの運動を,顔面皮膚上点から推定が可能であることが示唆された.
|