研究概要 |
チタンインプラントと上皮組織との接合は未だ不十分であり,その結果,細菌の侵入や上皮のダウングロースなどが起こり,インプラント周囲炎を引き起こす可能性があるとされている.ラミニン,フィブロネクチンなどの細胞接着タンパク質のチタン表面への固定化により,上皮付着機構を有するチタンインプラント材の開発が可能と考え,比較的簡便でかつ確実に固定化できる方法としてトレシルクロリド(CF_3CH_2SO_2,Cl)の利用を試みた. チタンディスクをコロイダルシリカ溶液(pH9.8)により鏡面仕上げした.トレシルクロリドを鏡面研磨チタン表面に塗布し,37℃にて2日間反応させた.水/アセトン混合溶液にて洗浄,乾燥後,トレシル化チタンをpH7.4のフィブロネクチン/リン酸緩衝溶液(0.1mg/ml)に37℃で1日間浸漬した. トレシル化チタン表面のX線光電子分光(XPS)測定を行ったところ,トレシルクロリド由来のFlsのピークが688.6eV付近に観察された.また530.3eV付近にTiO_2の酸素原子由来のO1sピークが,532eV付近にトレシルクロリドの付加によって生成した有機酸素原子に由来するO1sピークが観測された. トレシル化チタンにフィブロネクチンを固定化し,その後,純水で洗浄した試料のXPS測定では,フィブロネクチンに由来するN1sのピークが399.9eV付近に観察された.このピークは60秒間のエッチングによっても消失しなかった.また,フィブロネクチン固定化後,60分間超音波洗浄した試料においてもフィブロネクチン由来のN1sピークが観察された. 以上の結果から,トレシルクロリドを用いた反応によって,チタン表面に簡便にフィブロネクチンが固定化できる事が判明した.
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