研究概要 |
咬合の障害が生体にストレス反応を引き起こす可能性が臨床症状から示唆されているものの,その因果関係についての研究は十分になされていない.前頭皮質ドーパミン(以下,DA)放出は心理的ストレッサーによるストレス反応の指標として多くの研究で用いられている.我々は咬合障害が心理的ストレッサーなりえるのかどうか,実験的咬合障害を用いて検討した.そして,精神医学的検討を加えるためにベンゾジアセピン系抗不安薬のジアゼパム(以下,DZ)を投与した際のDA放出量の変化を分析した. 咬合障害は0.5mmのステンレス板を長さ2mm幅1mmに切断したものを用いた.内側前頭皮質DA放出量の測定はマイクロダイアリシス法を用いて行った.DA放出量は咬合障害を装着する60分前より開始し,装着180分後に摂食をさせ,引き続き180分間の経過を測定した.DZの影響を分析する場合は摂食前にDZを投与した.また,薬剤投与の対照として摂食前に生理食塩水を投与する実験も行った. 咬合障害が前頭皮質DA放出に及ぼす影響を調べた結果,咬合障害群と対照群において群間,経過時間ともに有意差が認められた.対照群のDA放出量は摂食前後で変化は認められなかったが,咬合障害群では摂食後有意な増加を認めた.DZの影響を調べた結果,対照群と咬合障害群では群間,経過時間ともにDA放出量の変化において有意差は認められなかった.生理食塩水の影響を調べた結果と対照群と咬合障害群の比較では群間,経過時間ともに有意差を認めた.障害群で摂食後DA放出量は増加した. この結果,咬合障害状態で摂食を行った際に生じるDA放出量の増大は抗不安作用のあるDZによって抑制されることが明らかになった.本実験より,咬合障害を付与した状態で摂食を行うことはラットに心理的ストレス反応をもたらすことを示した.
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