研究概要 |
本研究の目的は、筋の収縮時の振動である筋音および筋電図波形から、筋の収縮機構や筋疲労の発現機構を推察することにある. まず,筋音導出に用いるアモルファス磁心マルチ形磁石変位センサの変位-出力電圧特性を調べた.次に健常な16人の男子を被験者として,最大咬合力(MVC)に対する8段階の咬合力発揮(%MVC)時,さらに筋疲労後の4段階の%MVC時の筋音および筋電図を右側咬筋より採得し,その振幅および周波数特性から以下の結果を得た. 1.本センサは、筋音計測に十分な範囲(3.0±0.1mm)において,良好な変位-出力電圧特性を示した. 2.筋音の振幅値は20%MVCまで急激に増加するが,20%MVC以上では徐々に減少する傾向を示した.これに対して筋電図の振幅値は,%MVCの増加に伴って直線的に増加する傾向を示した. 3.%MVCの増加に伴って,筋音のパワースペクトルのmedian周波数に変化は認められなかったが,高周波数帯の成分が大きくなる傾向がみられた. 4.疲労後の筋電図の振幅値は疲労前より増加する傾向を認めたが,筋音は有意な差を示さなかった. 5.変換効率[筋音振幅値/筋電図振幅値]は,疲労後の10%と20%MVCにおいて低下傾向を示した. 6.疲労後,%MVCの増加に伴う筋音パワースペクトルの高周波成分の増加は疲労前より小さかった. 以上より,咬筋は筋の力学モデルを構成する弾性要素が20%MVC以上で引き伸ばされ始め,より大きな筋力発揮時には速筋線維が動員され,収縮頻度を増加させていることが示唆された.また疲労が生じた速筋線維の収縮機能低下を補償するために,より多数の筋線維の収縮と収縮頻度の増加が起こっていることが推察された. 筋音は筋電図と筋力だけでは把握することのできない筋収縮の機構の検索や筋疲労を評価する指標として,歯科臨床の診断の一助になりうることが示唆された.
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