研究概要 |
高齢者のみならず,私たちの咀嚼能力は現在歯数やその機能に依存しているおり,自分の歯の数が多いほど咀嚼能力が高い。しかし一方で,多くの高齢者は,義歯などの補綴物による人工の歯の力を借りることにより,喪失した咀嚼機能を維持回復して日々の生活を営んでいるという実情もある。本研究は,機能歯三角マップを応用して,現在歯数ばかりでなく補綴歯数も考慮に入れた機能歯数と咀嚼能力との関係を検討することを目的とした。 本研究では,3種類の調査データを使用した。すなわち,東京都老人総合研究所の中年からの老化予防に関する医学的研究,日本大学総合学術情報センターの縦断研究プロジェクトによる全国訪問聞き取り調査の結果,それに東京都の離島における高齢者の体力調査資料である。そのような資料を用いて,性,咀嚼能力別に機能歯三角マップ上に個人を布置しその分布を調べた。 その結果,咀嚼能力の高い咀嚼能力5の群では,現在歯数20本以上の人が,男女とも確実に存在していた。これとは別に総義歯を含めた機能歯数25本以上の高齢者は,さらに高い割合を示しており,総義歯装着などの補綴処置が咀嚼能力回復に確実に貢献していることを実証的に示した。 咀嚼能力が低下するにつれ,現在歯数の多い者の割合は減少していた。特に十分な咀嚼能力が得られない咀嚼能力1は,人数にして1割未満であるが,義歯装着などにより歯の本数はほぼ回復されていたものの,十分な機能回復はなされていなかった。女性の方が男性に比べ相対的に咀嚼能力の低い者の割合が高かったので咀嚼筋力の関連もあろうが,現在使用中の義歯の質が向上すれば,さらに多くの高齢者の咀嚼能力回復が期待できよう。本研究を通じて,機能歯三角マップ法による地域高齢者の歯科保健水準の新しい評価方法は,かなり有効であることを確信した。
|