研究概要 |
モデル薬物として,溶解性が低く、結晶多形により溶解性が変化するスルフォニル尿素系経口糖尿病治療薬トルブタミドあるいはクロルプロパミドを用い,これら薬物の結晶化・多形転移に及ぼす非晶質性2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-CyD)の影響を検討し、以下の基礎的知見を得た。 1.トルブタミドはHP-β-CyDとモル比2:1(ホスト:ゲスト)の包接複合体を形成し,空洞径が小さいHP-α-CyDはブチル基を優位に包接し、一方空洞径が大きなHP-β-CyDはフェニル基を優位に包接することを明らかにした。一方,クロルプロパミドはHP-β-CyDとモル比1:1の複合体を形成し,クロルベンゼン部分が優位に包接されることを明らかにした。 2.トルブタミドをHP-α-CyDおよびHp-β-CyDと噴霧乾燥すると非晶質の複合体を形成した。HP-α-CyD中のトルブタミドは保存によりForm Iへ結晶化したが、HP-β-CyD中ではForm IIへ転移した。複合体からのトルブタミドの結晶化は吸湿性や粘性などの環境因子よりもCyDsによる包接作用が大きいことが明らかとなった。 3.クルプロパミドをHp-β-CyDと噴霧乾燥すると非晶質の複合体を形成した。この非晶質複合体は安定であり,加圧時の多形転移は観察されなかった。一方,この複合体を40℃,75%相対湿度下に保存するとForm C結晶が生成したが,Form CはHP-β-CyDマトリックス中で安定であり,Form Aへの転移は抑制された。複合体の溶解速度は準安定形Form Cに比べて著しく速かった。 以上の知見は、CyDsの包接作用を利用して固体薬物の結晶化経路、結晶成長、多形転移などの制御が可能なこと示唆するものあり、結晶工学へのCyDsの有効利用が期待された。
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