研究概要 |
血管腔区画に相対する血管内皮細胞のゾーンディフェンスラインを形成している活性酸素消去酵素extracellular-superoxide dismutase(EC-SOD)は,血管系で発生する活性酸素を効率よく消去し,血管壁のホメオスタシスの維持に貢献している.また,血管腔内においては血漿中に存在する遊離型と内皮細胞表面に局在する結合型との間で形成される平衡状態を保って存在している.そのため,血管系でのEC-SODの存在様式は酸化ストレスおよびそれに起因する様々な病態を鋭敏に反映していると考えられる.そこで本研究では,動脈硬化症や血栓症の危険因子として注目されているホモシステインや,感染・炎症反応において誘導型NO合成酵素の発現を介して過剰に発生したNOやそれ由来の窒素酸化物が血管系でのEC-SODの生理機能に対しどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的とした.その結果,(1)動脈硬化症患者血清中のホモシステイン濃度と血清中EC-SOD濃度との間に有意な相関性が認められた.(2)ヒト大動脈由来内皮細胞(HAEC),ウシ大動脈由来内皮細胞(BAEC)やヘパリンコーティングプレートへのr-EC-SODの結合はホモシステイン処理により有意にかつ濃度依存的に低下した.(3)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC),BAEC,ヘパリン結合プレートへのr-EC-SOD結合量はNO供与体であるSNAP、NOR4の添加により濃度依存的に有意に低下した.(4)ヒト単球J-774 A-1細胞をLPSにて刺激した場合にNO産生が亢進されたことを確認した後,HUVECを上記のLPS刺激J-774 A-1細胞と共培養した結果,HUVECへのr-EC-SOD結合量は有意に低下した.さらに,NO合成酵素阻害剤であるL-NNAを同時に添加した場合,r-EC-SOD結合量は回復した.以上の結果から,血漿中のホモシステイン濃度の上昇や活性化された好中球等から過剰に発生したNOは内皮細胞表面に局在するヘパラン硫酸プロテオグリカン類の機能低下を招き,血管内皮細胞へのEC-SOD結合量を低下させるため,内皮細胞フロントラインにおいて発生する活性酸素に対する防御能の低下を招いていることが示唆された.最近,動脈硬化等の血管系疾患が炎症病態として捉えられるようになってきたが,これらの危険因子としてのホモシステインや過剰なNOの作用機序の一つとして重要であると考えられた.
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