研究概要 |
本研究は,免疫担当細胞などの生体にとって重要な細胞種を含む血液細胞について,薬物代謝酵素の発現様式とその生理的機能を明らかにすることを目的とした.6種のヒト血球系培養細胞について,cytochrome P450(P450,CYP)および抱合酵素の発現解析を行った.CYPについては,CYP1A1,1A2,1B1,2A6,2A7,2D6,2E1の発現がすべての細胞で確認された.また,2A13,2C9は検出されなかった.肝臓で強く発現しているCYP3Aサブファミリーについては,CYP3A4,3A5の発現がMOLT4,K562で見られた.また、CYP3A7の発現はK562で弱い発現が認められたのみであった。さらに、HL-60やK562の分化を誘導した場合,発現しているCYPの種類、量には大きな変化は見られなかったが,K562をヘミンで誘導した際,CYP3A7の発現に若干の減少が見られた.硫酸転移酵素(SULT)については,フェノール性基質を抱合するP-ST(SULT1A1,1A3)の発現がすべての細胞で確認された.また,発癌物質の代謝的活性化に関与すると考えられるSULT1C2の強い発現も全ての細胞で観察された.しかし、甲状腺ホルモンなどを抱合するSULT1B1はU937およびJurkatで発現し、ステロイドホルモンを抱合するSULT2A1はK562でのみ発現が認められた。グルクロン酸転移酵素(UGT)では,多くの薬物・異物の抱合に関係するUGT1Aファミリーの発現はリンパ球系のMOLT4,BALL-1でのみで見られた.BALL-1では8種のUGT1Aサブタイプが発現し,MOLT4では2種のUGT1Aサブタイプの発現が見られた.ステロイドの抱合を行うUGT2Bファミリーの発現はほとんどの細胞種で見られたが,UGT2B10は4種のリンパ球系細胞のみに,また,UGT2B17はK562細胞にのみ発現していた.また,グルタチオンS-転移酵素(GST)の発現に関しては,GSTA4,GSTP1,GSTT1の発現がすべての細胞種で確認されたが,タバコの発癌物質の解毒に関係するGSTM1の発現はMOLT4にのみ発現が見られた.過酸化水素水(100μM)による過酸化ストレスの影響をK562細胞で見たところ,CYP3A4で7倍,GSTP1で10倍の発現の増加が観察された.また,MOLT4について肝臓の薬物代謝酵素を誘導する化学物質の影響を見たところ,β-ナフトフラボンや3-メチルコラントレンによりCYP1A1の発現が3〜4倍増加し,フェノバルビタールによりCYP3A4の発現が抑制され,また,UGT2B4の発現は5倍上昇した.
|