研究概要 |
平成12〜14年度の環境化学物質によるマスト細胞からのケモカイン遊離機構の解析に関する研究から、下記の知見が得られた。 (1)ラットがん化好塩基球(RBL-2H3)細胞、マウス骨髄由来肥満細胞に、細胞内カルシウム濃度上昇を促す抗酸化剤(DTBHQ)を作用させたところ、ケモカインMCP-1の産生がIL-4の産生と同様3時間以上の時間をかけて引き起こされた。MCP-1の産生は、mRNAの上昇を伴う転写レベルの活性化により引き起こされていることが、TaqMan-PCRを用いる定量PCR法からも示され、MCP-1が、マスト細胞の刺激に伴い遊離される後期炎症因子としての可能性が示された。また、MCP-1の産生は、サイクロスフォリン、デキサメサゾン、p38MAP kinase阻害剤SB202190で十分な抑制がみられた。 (2)RBL-2H3細胞に、DTBHQを作用させ、ケモカイン遺伝子を含む細胞内遺伝子発現につき、DNAチップを用いて網羅的に解析を行った。その結果、MCP-1,IL-3,IL-4,IL-9,IL-13,GADD45,RelaxinH1,GADD153等の多くの遺伝子の発現に変化がみられた。 (3)次いで、含窒素系農薬(chlornitrofen, CNP)のRBL-2H3細胞における遺伝子発現につき、DNAチップを用いて網羅的に解析を行った。MCP-1遺伝子の発現は、刺激後3時間でピークとなった。その他、初期転写活性化因子Egr-1(krox 24),ストレス応答遺伝子GADD45遺伝子の発現の有意な上昇が観察された。 これらのことより、種々のマスト細胞からのケモカイン(MCP-1)産生が、細胞内カルシウム濃度上昇を促す環境化学物質により促進されるばかりでなく、脂質過酸化を促進する作用を有する農薬でも促されることが示された。また、DNAチップを用いた研究から、ケモカインも含めた発現遺伝子の網羅的解析を行うことで、特徴的な遺伝子発現パターンから環境化学物質の作用部位を予測することも可能であることが示された。
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