研究概要 |
1996年に日本の病院で初めてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が確認されて以降,国内でのVRE感染症および保菌者の報告数は必ずしも多くないが,既に全国各地に拡散していると考えられる。VREの院内感染ないしVanA型VREのアウトブレイクも報告されるようになり,感染防止対策の強化が求められている。1998年5月,岡山大学病院へVanA型Enterococcus faecium (VREF)が腸内に定着した白血病患者が入院したのを契機に,我々はVREの問題点を認識し,その対応としての研究に着手した。その後VRE検出法,分子疫学,VRE感染症に対する併用療法に関する検討を行った。 現時点で日本において最も重要であると考えられるVRE対策は,日常の臨床検体からのVRE検出を確実に行うことである。我々が確立したmultiplex-PCR法は,迅速性・簡便性・再現性に優れ,菌種の同定とバンコマイシン耐性遺伝子の検出を同時に行うことができる。多数の検体を同時に解析するために考案したが,日常的にVREを迅速に確定するためにも有用である。 分子疫学的検討に関しては,Tn1546関連遺伝子群の解析を重要な検討課題として位置づけた。岡山大学病院で分離されたVREFがヨーロッパ産豚由来株と同一のトランスポゾンTn1546亜型2を保有することを確認して以来,日本で分離され,我々が分与を受けたVREのトランスポゾン(TP)型の解析を継続している。輸入鶏肉からVanA型VREが検出され問題となっているが,日本におけるVRE拡散には別経路からの可能性も考慮する必要がある。またTP型の解析は,院内での交差感染の有無を判断する上でも重要であった。 重症腸球菌感染症の治療にはアンピシリン(ABPC)とゲンタマイシン(GM)の併用療法が汎用されてきた。GMに高度耐性を示すVRE感染症の治療に,ABPCとアルベカシン(ABK)の併用が一つの選択肢となりうる成績が得られた。
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