研究概要 |
免疫抑制、cyclosporine A(CsA)およびtacrolimus(TCL)は、移植医療に不可欠な薬剤である。しかし、免疫抑制薬治療の問題点として腎、肝、中枢における有害作用があげられる。この中枢毒性回避法の設計に着手するため、脳グリア細胞の一酸化窒素(NO)に焦点を当て、中枢毒性発現機序を解明することを企てた。 (1)CsAの中性性副作用である悪心・嘔吐は、抗コリン薬と抗ヒスタミン薬投与により軽減する(Y.Fujisaki他,2001)、および、更年期患者では、免疫抑制薬の痙攣発現が増大する(K.Tominaga et al.,2001)、可能性を示唆する実験証拠を得た。(2)グリア細胞のNO産生は、ラットの虚血性脳神経細胞障害の誘発要因であることが明らかとなった(H.Shibaguchi他,2000,K.Yamashita 他,2000)。(3)CsA単独ではグリア細胞株(C6グリオーマ)のNO産生に影響を与えながったが、α1受容体刺激誘発NO産生は著明に増大した。この増強作用は、IP3受容体遮断薬により抑制された(H.Ikesue他,2000)。マウス脳血管内皮細胞株(MBEC4)をインサート内面に培養したmonolayer系とMBEC4およびC6細胞をそれぞれインサート内面および外面に培養した共培養系を作製した。CsAによるMBEC4のsodium fluorescine透過性高進は、共培養系の方がmonolayer系より有意に大きかった(S.Dohgu他,2000)。 以上、CsAは血液脳関門を構成するグリア細胞に作用し、刺激誘発NO産生を増大させ、血液脳関門の機能障害を誘発する可能性が示唆された。この機構は、CsAの中枢毒性である悪心・嘔吐や振戦・痙攣発現の「引き金」となるかもしれない。
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