研究概要 |
情動の最適化をもたらす運動として快適自己ペース運動(comfortable self-paced exercise : CSPE)をとりあげ,その効果を青年男女と中高年女性で,感情,体温,脳波,自然免疫能,血中ホルモン濃度,夜間睡眠から検討した。CSPEによってこれらの測定項目に現われた変化と変化量の相互関連を検討した結果,(1)対象者によって快適と感じる運動強度は異なり,体力水準の高い者は低い者に比べて高い運動強度を好んだが,運動実施の情動改善効果は全ての被験者で認められた。快感情得点が運動10分頃から高まり,不安感得点は低下していき,運動実施後リラックス感得点が高まった。(2)CSPEを行う前後に測定した脳波α波パワー値が運動実施直後に高まり,θ波とβ波パワー値は低下する傾向が明らかになった。頭皮上の10部位で測定した脳波から求めた脳波感性スペクトル値の結果からも,ネガテイブな感情値の低下,ポジテイブな感情値の上昇が裏付けられた。(3)CSPE前後に採血して測定した結果,すべての被験者で運動後にカテコールアミン濃度は上昇する傾向にあった。CSPEによって,カテコールアミン濃度と同様に血中NK細胞活性は上昇したが,β-エンドルフィン濃度は運動強度が高い場合に上昇し,低い場合には変化しなかった。(4)被験者個々人について,情動の変化と生理機能の変化,特に体温,血液ホルモン濃度,NK細胞活性の変化間の相互関連を検討した結果,体温の上昇と交感神経活動の亢進(変化量または変化速度)が,情動の快適化(最適化)と関連し,最適化運動量を求める指標になりうる可能性が推測された。(5)夕方遅い時問に実施したCSPEによって夜間睡眠は改善したが,この生理的要因としてCSPEによる体温の上昇,情動の改善が関与すると推察された。
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