研究概要 |
一般に多くの動作は,身体の複数部位を同時に動かすことで成り立っている.巧みな動作の遂行には,個々の部位が適切なタイミング,適切な力の発揮によりなされる,すなわち必要部位以外は極力その活動は抑制されることが必要である.ところが,子どもでは動作遂行の際に抑制的機能より促進的機能が優位であり,筋・神経系の動作調整機能が未発達であることから,複数部位使用における子どもの動作パフォーマンスに低下がみられる.本研究では上肢末梢部位による素早い動作(グリップ動作)を運動課題として用い,成人でみられる両側性機能低下現象が子どもでもみられるのかに着目し,すばやい動作の抑制系機序について,子どもの特性を明らかにするために実験を試みた. グリップ(把握)動作を用いて,一側単独(利き側,非利き側)および両側同時条件における音刺激に対する単純反応時間を測定し,同側での一側反応時間および両側同時反応時間の変化をみた.本実験の結果からは,反応時間における両側性機能低下現象が,子どもでは成人と異る傾向がみられた.すなわち,同側において,「一側単独」,「両側同時」による反応時間を比較すると,成人では全般に左右ともに「両側同時」反応が「片手単独」より遅くなる傾向がみられた.さらにその傾向は利き側のほうがより強かった.それに対し子どもでは,利き側あるいは反応時問の早い側では「両側同時」が遅くなる傾向もみられたが,非利き側あるいは反応時間の遅い側では逆に「両側同時」が「一側単独」より早くなる傾向であった.また,すばやく反応動作を行なう場合の発揮出力(グリップ力)についてみると,両側同時動作で一側単独より出力が小さい成人に比して子どもでは全般に両側ともの発揮出力が大きく,その差も小さかった.神経系の働きが発達過程にある子どもでは,非利き側,あるいは反応が遅い側では,反対側同名筋において同時に力を発揮することで反対側への抑制よりもむしろ促通現象が起こる可能性があると考えられた.
|