研究概要 |
運動による冠動脈疾患予防の機序の一端を明らかにするために,運動トレーニングによる冠危険因子改善効果には末梢の微小循環改善が深く関与するとの仮説を立て,それを検証することを目的として種々の検討を行った.まず基礎検討を行った結果,運動による末梢の微小循環改善効果を評価する際には安静時前腕血流(basal FBF)と反応性充血時の総血流増加量(excess flow)を指標とした血管内皮機能を測定するのが適当と考えられた.またこれらの測定指標に日内変動が観察されたことから,介入前後の測定時刻を合わせる必要があることが判明した.次に,3ヶ月間の比較的低強度の有酸素運動を中心とした運動トレーニングが冠危険因子に及ぼす影響について検討したところ,血糖値,血清インスリン濃度,HOMA-IRが低下し,糖代謝改善効果が認められた.また運動トレーニング後に,血清TG, RLP-C, RLP-TG値の低下が観察され、TGリッチリポタンパク代謝の改善効果が認められたが,pre-heparin LPL massには変化は認められなかった.さらに,運動トレーニングが血管内皮機能に及ぼす影響を評価するために,basal FBF, excess flowを測定したところ,3ヶ月間の前後で有意な変化は認められず,本研究で採用した運動プロトコールでは明確な末梢微小循環改善効果が観察されなかった.また,運動トレーニングに伴うbasal FBF, excess flowの変化と糖代謝指標,脂質代謝指標の変化との間に有意な相関関係が認められなかったことから,本運動プロトコールにおける冠危険因子改善への末梢微小循環の関与は少ないものと推察された.今後,末梢微小循環改善効果を期待しうる運動トレーニングのプロトコールを採用した上で,本研究の仮説を再度検証する必要があると考えられた.
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