研究概要 |
本研究は7つの実験から構成され,それらの要約は以下の通りである。(1)下肢温浴実験において,女性の運動トレーニングは発汗・皮膚血管拡張機能を改善し,その改善は発汗機能では中枢機構および末梢機構の両活動性の亢進に,皮膚血管拡張機能では末梢より中枢機構の亢進に,それぞれ起因することが示唆された。さらに,運動トレーニングに伴う中枢機構の改善は,黄体期により顕著だった。(2)運動実験時における前腕血流量と平均体温の対応関係から,運動トレーニングが皮膚血管拡張を中枢および末梢で改善することが示唆された。(3)若年女性の運動トレーニングによる皮膚血管拡張能の亢進は,能動的血管拡張システムの感受性より皮膚血管収縮神経のtoneの大きな低下に起因することが示唆された。(4)非運動鍛錬者では安静から50%VO_2max運動時までは,非活動部位における筋と皮膚への血流量が比例的に増加したが,さらに高強度の運動になるとその血液配分が修飾され,非活動筋より活動筋や皮膚への血流を優先することが推察された。しかし,その修飾は運動鍛錬者の65%VO_2max運動まではみられなかったため,持久的運動トレーニングは,非活動筋への血流分配の抑制を高強度側にシフトすることが示唆された。(5)全身寒冷暴露実験において,女性は男性よりも皮膚血管収縮を亢進させずに厚い皮下脂肪厚による優れた断熱性で寒冷に対処することが示唆された。皮膚血管収縮に関与する末梢機構は性周期・性により修飾されないものの,中枢機構は性周期で修飾されることが推察された。(6)全身寒冷暴露実験において,「冷え性」申告者は,寒冷刺激による皮膚血管収縮反応よりその後の環境温上昇時における鈍化した皮膚血管拡張反応が顕著だった。この鈍化した皮膚血管拡張反応は上肢で顕著だった。(7)手中指の氷水浸漬実験において,女性は男性より,女性の「冷え性」申告者は男性のみならず一般女性より,いずれも劣った寒冷血管拡張反応を有することが示唆された。
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