研究概要 |
本研究は,体育科の授業研究における方法論の再構築に向けた基礎的作業を試みるものである.特に,量的研究法とは,その「客観性」「科学性」の上から二項対立的な図式で扱われてきた質的研究法の方法論について吟味しようと,以下のような検討を試みた. 第一に,戦後の体育授業研究の展開動向に関し時期区分を試み,各期の特徴とその成果を明かにしようとした.さらに,1980年代以降の実証的・定量的研究法における研究成果の言及精度と言及範囲を検討する中で,今後の体育授業研究においてパラダイムの転換が求められる必然的な根拠を示すとともに,体育授業研究の方法論にとって中核をなしている「観察(者)システム」をめぐる問題を「観察者の位置と視点」からの検討を試みた. 第二に,「観察者の位置」に注目し,以下のような実験を試みた.授業システムが作り出す位相空間に対する位置を異にする観察者=「実践者」「現地参加観察者」および「外部観察者」による授業観察を実施し,そこでの観察内容・解釈の比較・検討を行った. 第三に,授業システムが作り出す位相空間の内部に入り込んで,当事者としての位置から観察するころを意図した質的研究法による授業研究を試みた.そこでは,アクション・リサーチによる共同的な授業研究,さらに,同僚性としての連携をもたらす教師(実践者-研究者)相互の関係性に注目した事例研究によって「実践者」および「参加観察者」の授業づくりに関わる省察内容の変容過程について検討した. 以上の結果から,共同的な観察体制の必要性,内側⇔外側と視点を移動しながら授業システムの振る舞いを多面的に観察することの重要性が示唆された.
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