研究概要 |
1997〜1999年にポーランドの扇状地を調査した結果,開析過程について,土砂供給量の減少により,「扇状地上の自由蛇行→穿入蛇行→直線状の河道による段丘崖の形成」といった過程をたどる可能性の高いことが,明らかになった。この仮説を確かめるため,本研究では,ポーランドの南部にあり気候変化の質的変化が大きかったと思われるチェコとスロバキアの扇状地について現地調査を行うと同時に,日本の扇状地において河道形態の分析と礫径分析を施し,扇状地の開析過程のモデル化を試みることを目的にした。 2000年と2001年の調査で,チェコやスロバキアでも,ポーランドと同様の開析過程をたどったと推定される扇状地を見出すことができた(斉藤,2002a)。そのようななかで同時に進めた文献収集により,堆積学の分野では,最近,扇状地の定義が議論になっていることを知った。なかでも,扇状地の定義を厳格化したBlair and McPherson(1994)は,0.5〜1.5°(9〜26‰)の堆積勾配は自然界に存在せず,扇状地の勾配は1.5°(26‰)以上で,長さはせいぜい10kmなので,湿潤地域の大規模・緩勾配「扇状地」は扇状地ではないと主張した。その定義によると,黒部川扇状地(長さ11.8km,平均勾配10.6%。)はもちろん,日本では掃流砂礫の堆積によってできたと考えられている10‰以下の緩勾配扇状地(門村,1971)は,扇状地ではなくなる。また,面積2km^2以上の日本の490扇状地では,0.5〜1.5°の平均勾配の欠落どころか低頻度も認められない。このような状況を,これから地形学を志す人に知って欲しいと思い,最近の研究動向をまとめると同時に(斉藤,2001a),Blair and McPherson(1994)を抄訳した(斉藤,2001b)。さらに,これまでの世界の扇状地研究に関する文献もまとめた(斉藤,2002b)。
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