研究概要 |
本研究の意義は,第1に,本生活時間調査が特定の地域と密着した小規模な質的調査である点,第2に,20世紀終わりの年,国連のミレニアム開発目標が示されたその年に調査を実施しているということである。本研究の目的は,第1に,1990年から,調査に協力しているカップルをピックアップし,同一対象に対するパネル調査,今後のロンジチュージナル調査の一般的可能性を探ること,第2は,東アジア三ヵ国(中国・韓国・日本)の生活時間分類の統一を追及すること,第3に,育児・介護・ボランタリー活動という無償労働の測定方法の新たな開拓,第4に,生活時間研究を,生活経営学的研究から生活福祉経営学的研究に捉まえ直し,福祉社会の社会福祉研究に貢献する方法を探ることであった。なお,すべてを通じてジェンダー視点を根底においている。 2000年10月,生活時間調査票及び付帯質問紙を作成し,1990年,1995年の同一対象者と,新たに世田谷区在住の雇用労働者夫妻に,区の広報等で公募を行ったところ,146組の夫妻の協力を得,プレコード方式の生活時間調査(10月中の平日・休日の各1日ずつ)を実施し,付帯質問を含めて郵送・自記・留置方式で回収した(有効回答数は131カップル計262人,平均年齢は夫47.4歳,妻45.6歳)。集計は妻の勤務形態別(妻常勤41,妻パート35,妻無職55)に行なった。特徴的な点を記せば,妻常勤世帯では過去の調査と比較して,(1)勤務時間は夫妻とも増加し,(2)夫妻の家事労働時間は,平日・休日ともに減少し,(3)休日の社会的・文化的生活時間は増加していた。個別の論点についての分析結果を日本家政学会,社会政策学会,経済統計学会,日中経済統計学国際会議で報告したが,収入労働時間については,日本で問題にされている不払い残業の実態が明らかにされ,家事的生活時間については,その評価にあたって,地域通貨や評価ファクターを用いる新たな方法を提示し,1995年と2000年調査の同一協力者の事例から,夫妻の生活時間の共有部分の変化を把握し,また,2000年調査の協力者の事例から,自宅内・自宅外の時間の使い方を,場所別・一緒にいた人別に検討することができた。 最後に,調査全体から,少子高齢社会の生活時間研究と生活福祉経営の新たな展開が示唆された。
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