研究概要 |
本研究では,初等学校児童の理科学習における問題解決能力とグラフ認知の関連性を探るため,1.理科と算数の学習双方における問題解決の過程とグラフ作成・読み取り技能(グラフスキル)の比較をもとにグラフスキルの教科依存性を調べ,2.理科学習における児童の問題解決能力を高める一つの方法としてグラフを効果的に活用した学習モジュールを試作・試行しその妥当性を検討することを研究目的とした。 研究を通して,次の成果があった。 1.数学ではグラフを描くことができるが,理科において単純な運動を示している時間と距離のグラフを描いたり解釈したりできない生徒が存在する。これは実験を行っているときの独立変数と従属変数との認識と,それらを表現する手段としてのグラフの軸の間に隔たりが存在しているためであり,特に,時間という認識が困難な変数を,長さという仮の姿を借りてグラフに表現する時点で,いっそうの混乱を生じさせていることが判明した。従来この困難性は,運動を表す式を解釈してグラフ化する過程に由来すると解釈し,グラフ化の学習が行われている算数・数学での関数の学習にゆだねていた。 2.小学校児童に適応させた学習モジュール「歩いてグラフを描く活動」を用いることで,歩いたり動いたりする実験的活動を通して,空間の位置関係や距離,時間というものを協同学習場面で児童自らが考察することが確かめられた。この学習モジュールを用いることで,理科と算数・数学の考え方を結びつけたグラフ認知を創ることが可能となった。そして,それらは理科学習における問題解決能力の一つの要素となりうるものである。 今後は,小学校高学年でモジュールの活用事例を増やし,児童が表出する内容と認識の変化について客観性を高めると同時に,児童・生徒の時間概念がグラフ認知過程におよぼす影響に関して実証的に研究を行う計画である。
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