研究概要 |
複数の学習者が協調しながら学習する様子を捉え,その環境を計算機上で実現するCSCW/Lの研究が盛んに行われている.その一部として,参加者の議論状態を同定し,より議論を有効的なものにする研究がある.しかし既存の研究成果では,学習者個人の思考,学習,知識獲得という実態が明確でないために,議論を有効なものにする限界が生じている.その原因として,適応可能な基礎理論が確立していないことが挙げられる. 一方,1983年J. Berwiseらによって自然言語の意味論の立場から状況理論が研究され,自然言語への応用が可能となった. そこで本研究では,以下の3点を目的として研究を行った. (1)協調学習支援環境のための議論支援システムの実装を考慮した,論理学の類推を用いた知識獲得手法の状況理論上での定式化. (2)(1)で定式化した理論的結果を用いた,議論支援システムモデルの開発. (3)協調学習支援環境のための議論支援システムの開発. 本研究の前半部では,上記(1)を目的として研究を行い,その結果,論理学での類推の例証的基準の状況理論上での定式化,類推に対する反例と阻害要因の定義,およびそれらの性質について明らかにした.これらから,類推の反例を用いて未知の知識を獲得しうる可能性を示すことができた.これを応用し,状況理論の制約の生成方法や更新方法について,試行錯誤的な手法による新しいアプローチを示すことができた. 本研究の後半部では,上記(2),(3)を目的として,既存のグルーピングの概念をベースとしない新しい動的なグルーピングの方法を検討した.本モデルは,学習者らの相互作用による"創発"に着目し,協調学習環境におけるグループ編成の動的特性を表現している.さらに,動的グルーピングモデルに基づく行動様式を提供する協調学習のための議論支援システムを提案した.本システムでそのモデルを有効に機能させるために,Emergence Awarenessの導入を提案した.また,分散環境で動作可能な開放分散協調型議論支援システムLACEの設計方法について考察した.LACEの実現によって,知識に関する学習効果のみならず,人間同士の基礎的戦略などの心理・認知面での学習効果が期待できる.
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