研究概要 |
日本語学習者の多数を占める中国語系日本語学習者については、漢字を媒介として、母語の知識を利用し、日本語の漢字を効率的に理解したり、逆に誤用を引き起こしたりすることが経験的によく知られている。本科研研究では、中国語系日本語学習者を対象に漢字熟語の認知処理に関する実験を、形・音・義の三つの側面から実施し、日本語漢字の習得における母語からの影響を考察した。まずその準備として,平成12年4月より作成してきた常用漢字のデータベースが2001年3月に完成した。これは、オックスフォード大学のインターネット・データベース(Oxford Text Archive, Oxford University, U. K.)に保存され、どこからでもアクセスできるようになった。さらに、このデータベースを利用して平成13年度に一連の実験を行った。その結果,音韻的な類似性および書字的な類似性は、少なくとも超上級の中国語系日本語学習者においては、日本語の漢字処理に影響しないことが明らかになった。しかし、両言語における意味的な類似と相違については、非常に強い干渉が認知実験で観察された。つまり、中国語系日本語学習者がもっとも強く影響を受けるのは、漢字の音や形の類似性ではなく、意味的な類似性であることが分かった。とりわけ,中国語に存在するが日本語の語彙にはない漢字熟語は,極めて判別が難しく,日本語にはあると思い込んでしまう傾向があることが実証された。漢字圏学習者の日本語漢字の理解について、日本語の漢字学習を効率良く進めるために、母語の転移が生じやすい意味を持つ漢字表記の語彙群と生じにくい語彙群とに分けて系統的に教えるなどの工夫が必要であることを示唆した。
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