研究概要 |
無視できない非応答(nonignorable nonresponse)を応答変数(従属変数)または共変数(説明変数)のどちらかに含んだロジスティック回帰モデルは1996年からBaker, Chen, Clifford, Fitzmaurice, Heath, Ibrahim, Laird, Lipshitz, Zahnerらによって研究されてきた。これらの研究で提案されてきたパラメーターの推定方法や標準誤差計算方法においてはパラメーターの推定可能性が考慮されていない。この問題の存在についてはBaker and Laird(JASA 1988)が既に指摘しており、Ibrahim, Lipshitz, and Chenも"ある共変数が選択された場合にこのモデル族に対して推定可能なパラメーターをどのように特徴づければよいのかは不明である(JRSS, B 1999)"と述べている。共変数に無視できない非応答がある可能性を考慮したロジスティック回帰モデルのパラメーターが推定不可能となる事実を指摘したのが研究発表欄に掲げた第五番目の論文である。また応答変数に無視できない非応答がある可能性を考慮したロジスティック回帰モデルのパラメーターが推定不可能となる事実を指摘したのが研究発表欄に掲げた第四番目の論文である。この論文では応答変数における欠損値パターンがignorableである場合には、それらをlistwise deletionして解析した場合と結果が同値になるという興味深い結果を導出している。さらに応答変数に無視できない非応答がある可能性を考慮したパラメーター推定方法を多項累積確率のロジスティック回帰モデル(プロポーショナル・オッズ・モデル)に拡張し、これを米国Consumer Reportsの自動車の信頼性データに応用して推定不可能性が存在しないことを経験的に確かめたのが第三番目の論文である。 他方測定値からmeasurement modelを用いて潜在変数(latent variables)を構成し、さらにこの潜在変数どうしの関係を定式化した構造方程式を推定する構造方程式モデルは社会科学における重要な疑問に答える手法として広く認識され、ソフトウエアの普及ともあいまって近年多く利用されるようになっている。特にlongitudinal dataにおいてよくみられる欠損値が構造方程式モデルにおいて不完全なデータがある場合の近年の進展についてはAllison(2003)に詳しい。この論文の中でlistwise deletionやpairwise deletionなどの伝統的な手法の限界が指摘され、最尤推定法に基づく代替方法が展開されている。またmultiple imputationについてもその考え方と手法が詳細に展開されている。この分野の先行研究の網羅的調査を行うとともに、データを用いてこの方法のもつ推定上の問題点などを探った。これが研究発表欄に掲げた第一・二番目の論文である。
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