研究概要 |
本研究において筆者らは、1)遅延のある通信環境での視覚情報と力覚情報の提示方法,2)立体視覚における輻輳と調節による影響,3)ネットワークを介した実時間対話と通信遅延,4)予測による実時間対話性確保の応用事例,の4点について考察した.ここで1)では視覚と力覚の両感覚チャネルを統合したインターネット上の実時間対話環境を想定し、通信効率を考慮したうえで視覚情報よりも力覚情報を優先的に送信するプロトコルを考案し、タスクパフォーマンス効率の向上を確認した.次に2)ではよりリアルな仮想環境を構築するための3次元視覚提示手法について検討した.すなわち輻輳と調節を独立に制御できるHMDを用いて仮想スポーツ環境を構築し、そこで輻輳と調節の一致/不一致とスポーツ環境のリアリティ(具体的には捕球タスク)との関係を調査した.その結果輻輳と調節の一致が動的対象の視覚提示に必要であることを示した.更に3)では筆者らが提案した予測による実時間インタラクション手法:PFL(Predictive Feedback Loop)を実装し、模擬遅延のあるネットワーク環境での技能効率の評価実験を行った.実験で採用した協調作業においてはユーザーどうしが互いに協力しあうことから位置、速度ならびに加速度のみをパラメータとする上記の力学モデルなどの単純な予測でも技能向上が見込める(実験の結果では有意な差が認められ、50%の向上が示された)ことを確認した.最後に4)では3)の応用例として、ネットウーク対戦型のレーシングゲームに着目し、そこでの遅延感覚の調査とこの緩和を目的とした、対戦相手状態の予測手法を考案した.そこで得られた知見は,適応型誤差修正モデルの有効性である.従来の安定加速度を仮定したものと比較して「動きの滑らかさ」「相対位置の安定性」の点で優位であることが確認された.今後はこのモデルの幾何学的性質の調査が課題となろう.
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