研究概要 |
台風9918号および9119号時の瀬戸内海西部海域における被災資料や気圧・風・高潮の観測資料を解析し,沿岸被災の特徴や気象・海象の時空間変化を明らかにするとともに,過去51年間の既往台風と500年間のシミュレーション台風を対象とした高潮・波浪推算に基づいて,それらの極値を推定した。また高潮・波浪のリアルタイム予測システ厶を実台風に適用して予測結果の妥当性を検討した。得られた結果の概要は次のようである。 1.台風9918号時の沿岸災害の範囲は台風9119号時ほど広範囲に及んでいないけれども,新たに周防灘に面した福岡県沿岸で大規模な被害が生じ,愛媛県沿岸部では生じなかった。これは両台風時の潮時の相違による。 2.当該海域沿岸の観測記録の補間に基づいて,気圧・風・高潮偏差の時空間変化の細部を追跡することが可能になる。とくに,両台風時に150cmを越える高潮偏差の領域が5〜6時間の間に中国地方沿岸を西側の周防灘奥部から東側の広島湾に向けて異動する挙動が浮き彫りになる。 3.台風9918号は周防灘西部海域で過去50年の間の既往最大波高を上まわる規模の異常波浪をもたらしたと推定される。この異常波浪と満潮近くの高潮の重畳が福岡県から山口県に至る瀬戸内海沿岸の被害の原因である。 4.50年確率高潮偏差は豊後水道から内海部に向けて,内海部では周防灘奥部および伊予灘・広島湾に向けて増加し,最大値で200cmを越える。一方,50年確率波高は豊後水道で12m,内海で6mであり,周防灘や伊予灘ではより小さい、既往台風とシミュレーション台風の場合のこれらの値は比較的よく符合する。 5.高潮・波浪のリアルタイム予測システムは実台風に対して比較的精度のよい予測結果を与えるけれども,台風予報経路や台風勢力の予測の精度の制約を考慮すると,予測時間を24時間以内とするのが適切である。
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