研究概要 |
本研究では,ミリ波領域の分光用光源として,永久磁石システムを用いたハンドリングの簡易なジャイロトロンの開発研究を行った。そこで,永久磁石で発生する磁場で100GHzの発振を実現するため,大半径旋回電子ビームを共振器の中に入射することにより,サイクロトロン四次高調波による動作の実現を目指す。 現有の高電圧パルス電源(最大出力電圧40kV,最大出力電流6A)を用いて,サイクロトロン四次高調波が可能になるように,電子銃と磁場系を設計した。設計は,先ず,磁場強度分布及びエミティングエリアの半径方向と軸方向の位置を仮定し,電子ピームの軌道を計算し,大半径旋回電子ビームの諸パラメーター(電子ビームのピッチ角,リップル,速度拡がり)を求める。磁場強度分布及びエミテイングェリアの位置を変えて計算し,高品質な電子ビーム(ビームのピッチ角が大きく,速度拡がり及びリップルが小さい)が得られる場合の磁場強度分布とエミティングエリアの位置を確定し,磁場系と電子銃を最適化する。次に,磁気回路の計算によって,最適な磁場強度分布が発生できる永久磁石システムを設計する。しかし,永久磁石システムによって発生する磁場強度分布は、最適な設計値からずれているので,修正する必要がある。この修正は,得られる磁場強度分布の結果を電子ビームの軌道計算と磁気回路の計算との間で繰り返し受け渡す以外に有効な方法はない。このようにして,最終的な電子銃と磁場系を決定し,設計を終えた。その結果によると,比較的広い加速電圧の範囲(34kV〜38kV)で,ビームのピッチ角が大きく,速度拡がり及びリップルが小さい大半径旋回電子ビームが得られることが分かった。設計された磁場系に基づいて,1テスラの永久磁石システムを信越化学工業株式会社において製作した。そのシステムによって発生する磁場強度を測定したところ,ほぼ設計値に近いことが分かった。現在は,ロシア科学アカデミー・応用物理学研究所においてジャイロトロン管の製作を進めている。
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